神戸地方裁判所 昭和60年(行ウ)2号 判決 1990年7月25日
伊丹市荻野五丁目一七〇番地
原告
荒池正一
右訴訟代理人弁護士
竹田実
同
門間秀夫
同
小寺史郎
右訴訟復代理人弁護士
福本康孝
宝塚市雲雀丘二丁目九番二二号
原告補助参加人
尼崎市上坂部二丁目四番一号
同
和辻潤治
右両名訴訟代理人弁護士
岡野英雄
伊丹市千僧一丁目四七番三号
被告
伊丹税務署長
玉城幹治
右指定代理人
高須要子
同
竹内健治
同
岸本貴行
同
宮崎雄次
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実
第一申立
(原告)
一 被告が原告に対して昭和五七年一〇月二七日付けでなした昭和五六年分所得税の分離長期譲渡所得金額を五一九四万九六九二円とする更正(ただし、異議決定による一部取消し後のもの)のうち、総所得金額二一七一万一八〇〇円を超える部分及び過少申告加算税が二一万七一〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。
二 訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決。
(被告)
主文同旨の判決
第二主張
(原告)
〔請求原因〕
一 本件処分の経緯等
原告の昭和五六年分所得税についての確定申告、これに対する被告の更正決定および過少申告加算税の賦課決定並びに原告の異議申立、被告の異議決定、原告の審査請求、国税不服審判所長の審査裁決の経緯は、別表一のとおりで、被告の昭和五七年一〇月二七日付けの更正決定、過少申告加算税の賦課決定に対する原告の異議に対し、被告は、原告の昭和五六年分の分離長期譲渡所得金額を五一九四万九六九二円とし、この所得金額に対する税額一一二八万五七〇〇円と総所得金額(給与所得金額)に対する税額二一万五三〇〇円との合計一一五〇万一〇〇〇円を算出税額、過少申告加算税を五六万四二〇〇円とする異議決定をした(以下、この異議決定後の更正決定を「本件更正」と、賦課決定を「本件賦課」といい、一括して「本件処分」という。)。
二 本件処分の違法事由
原告の昭和五六年分の課税所得は、給与所得の二九一万円と訴外デシベル株式会社(以下「訴外デシベル」という。)に伊丹市荻野四丁目三三番二所在の田一九八平方メートルを売却した代金三五七〇万円の分離長期譲渡所得金額(この分については一〇〇〇万円の特別控除を受けた。)のみであるので、被告の本件処分には原告の所得を過大に認定した違法がある。
(被告)
〔請求原因に対する認否〕
一項は認める。二項中、訴外デシベルに土地を売却した原告の分離長期譲渡所得金額及びこれについて一〇〇〇万円の特別控除があつたことは認めるが、原告の主張は争う。
〔主張〕
一 本件処分の内容
1 原告は、昭和五六年八月二五日に訴外デシベルに前記土地を売却し、同年九月二八日、伊丹市荻野四丁目三三番の田四二〇平方メートルを同所三三番一の田二二一平方メートルと同所三三番二の田一九八・三五平方メートルに分筆し、後者の土地を同年一一月二日に訴外デシベルへの所有権移転登記をし、前者の土地(以下「本件譲渡土地」という。)につき同年一〇月一五日付けで訴外前田栄蔵(以下「訴外前田」という。)と同人所有の宝塚市山本野里一丁目六二番一の田四八一平方メートル(以下「本件取得土地」という。)との交換契約を締結した(以下「本件交換」いう。)そして、本件取得土地につき同年一二月一七日、農地法三条所定の許可を得、本件譲渡土地につき同月九日、同法五条の届出をし、それぞれ同年一二月一七日交換を原因として同月二一日受付で所有権移転登記を経由した。
兵庫県の代理人である兵庫県住宅供給公社は、原告との昭和五七年三月一八二日付け売買契約により、原告から本件取得土地と原告名義の(実際は、清和建設株式会社及び有限会社和辻建具店が国から払下げを受けた)宝塚市山本野里一丁目六二番二の田二三平方メートル(以下「本件旧国有地」という。)を代金三五〇七万八四〇〇円で買収し、この売却代金のうち三三四七万七六〇〇円を原告が、一六〇万〇八〇〇円を右清和建設株式会社らが取得した。
2 原告は、本件譲渡土地の譲渡により本件取得土地を「収入」したことになるところ、所得税法(以下「法」という。)三六条一項の「金銭以外の物又は権利その他の経済的な利益をもつて収入する場合には、その金銭以外の物又は権利その他経済的な利益の価額」をもつて「収入すべき金額」とするとの規定により、本件譲渡土地の譲渡による原告の収入金額は、譲渡時の本件取得土地の時価ということになる。
前記のとおり、昭和五七年三月一八日付けで兵庫県が本件取得土地外一筆を買収した価格は三五〇七万八四〇〇円で、一平方メートル当たりにすると、六万九六〇〇円であつた。本件交換の日から右買収の日まで時価の算定に影響を及ぼす特段の事情はないので右金額に本件取得土地の面積四八一平方メートルを乗じて算出した三三四七万七六〇〇円が本件取得土地の本件交換時の時価で、この価額が本件交換による原告の収入である。
そうすると、原告の昭和五六年分の不動産譲渡による収入は、訴外デシベルに対する前記売却代金分と本件交換による分の合計六九一七万七六〇〇円となり、課税分離長期譲渡所得金額は別表二のとおり六三五一万五五二〇円となる。
3 よつて、原告の昭和五六年分の所得金額は、給与所得二九一万円、右譲渡所得金額六三五一万五五二〇円の合計であつたから、この範囲内でなされた本件処分に違法はない。
二 本件交換に所得控除の特例の適用はない。
1 収用等を理由とする譲渡所得の特別控除について
租税特別措置法(以下「措置法」という。)三三条の四第一項は、公的機関が公共の用に供するために所定の規定に従い収用交換等をした場合に三〇〇〇万円の長期譲渡所得の特別控除を認める旨規定しているが、本件譲渡土地は本件交換により原告から訴外前田に譲渡されたのであり、かつ本件交換と原告がその後にした本件取得土地の兵庫県への売却とはまつたく別個の法律行為である。そうすると、兵庫県に対する本件取得土地の譲渡について右特例の適用があるとしても、本件交換に基づく本件譲渡土地の譲渡にはこの特例適用はない。
なお、原告は、兵庫県が本件譲渡土地を原告から買収して、訴外前田との間で本件譲渡土地と本件取得土地を交換すれば、措置法三三条の四第一項の規定により本件譲渡土地の交換について三〇〇〇万円の特別控除の適用を受け得たと主張するが、仮にそのような買収がなされても、措置法三四条の二第二項二号の規定により一五〇〇万円の特別控除が認められるだけである。
2 交換の場合の特例の適用について
法五八条所定の課税の特例の適用を受けるには、交換による取得資産と交換による譲渡資産が同種の固定資産で、それぞれ当事者が一年以上所有し、取得資産を譲渡資産の譲渡直前の用途(以下「従前の用途」という。)に供することが必要であるところ、原告が本件交換をしたのは、本件取得土地が兵庫県に買収されることを知つて可能な限り課税を低くするためで、原告に本件取得土地を耕作する意思はなく、現に耕作もしていなかつた。原告が本件取得土地を所有していた期間がわずか三か月であつたことに照らしても、本件取得土地を従前の用途に供したものということができないから、法五八条の特例の適用はない。
仮に法五八条一項の要件があつても、昭和五六年分の確定申告書にその記載がない等同条三項の手続的要件を欠いているので、特例の適用は認められない。
原告は、原告が本件交換による原告名義の所有権取得登記の存在を知つたのは昭和五七年九月であり、かつ、原告は本件交換に課税されるなど夢にも思つていなかつたのであつて、このことは、法五八条四項に規定する「やむを得ない事情」にあたる旨主張する。しかし、(1)本件交換契約に際し作成された「土地交換契約証書」には原告の署名捺印がなされていること、(2)本件交換契約に伴い所轄の農業委員会に提出された「農地等の転用のための権利移動届出書」の届出者欄及び「農地等の権利移動の許可申請書」の申請者欄に原告の捺印があること、(3)農地法三条一項の規定による許可があつた場合、実務上、都道府県知事は、その指令書を農業委員会を経由して申請者に交付することとなつているところ、本件の場合、兵庫県知事の許可指令書は、昭和五六年一二月一七日付けであるから、原告には遅くとも同月中に交付されているはずであること、(4)農地法五条一項の規定による届出が受理された場合、都道府県知事は、その届出者に対し、遅滞なく受理通知書を交付することになつている(農地法施行規則六条の三)ところ、本件の場合、その受理通知書は、昭和五六年一二月一九日付けであるから、原告には遅くとも同月中に交付されているはずであること、(5)都道府県(県税事務所)は、不動産の取得者に対し、地方税法七三条の一八(不動産取得税)に規定する申告書の用紙を、実務上おおむね取得登記がなされた月の翌々月に交付することとなつているところ、本件交換の取得登記は、昭和五六年一二月二一日になされているのであるから、右申告書の用紙は昭和五七年二月ころ原告に送付されていたはずであることなどの事実を総合すると、原告は、昭和五六年分の所得税の確定申告をする時点においては交換による原告名義の所有権取得登記の存在を知つていたというべきであり、昭和五七年九月まで知らなかつたということはあり得ないことである。また、本件交換が法五八条一項の特例を適用するための実体的要件を備えていないことは前述のとおりであるから、仮に、原告において本件交換が非課税であると誤信したとしても、法の不知にすぎないから原告主張のような事情は、そもそも同条四項に規定する「やむを得ない事情」には当たらない。
(原告)
〔被告の主張に対する認否〕
被告の主張のうち、本件交換を登記原因として本件譲渡土地と本件取得土地につき交換登記がなされたこと並びに兵庫県が原告から本件取得土地を買収したことは認める。
その余の主張は争う。
〔反論〕
一 本件交換の経過、本件処分の不合理性
1 原告の本件譲渡土地の譲渡の実態は、兵庫県への売却であり、その手続として本件交換がなされたもので、原告はこの譲渡につき三〇〇〇万円の特別控除があるとの説明を受けて本件交換に応じたのである。
すなわち、原告は、兵庫県から用地買収のとりまとめを依頼された有限会社和辻建具店代表者の和辻潤治及び清和建設株式会社代表者の古澤正弘(以下「和辻ら」という。)から、兵庫県が宝塚市山本野里一丁目に建設を予定している県営住宅の用地買収に必要な見返り土地(代替地)として本件譲渡土地を売却して貰いたいとの勧誘を受け、県の住宅政策に協力する趣旨で本件譲渡土地を交換に供することに応じたのである。その際に同人らから三〇〇〇万円までは譲渡所得について課税の控除が受けられるとの説明を受け、兵庫県が本件取得土地を買収した際にも、同人らから「公共用資産の買取り等の申出証明書」及び「公共事業用資産の買取り等の証明書」の交付を受け、翌五八年の三月に必要書類とともに申請すれば免税される旨の説明を受けた。
原告は、訴外デシベルには一平方メートル当たり一八万〇三〇三円で土地を売却しており、本件譲渡土地は訴外デシベルに売却した土地と一筆になつていた土地から分筆した土地で、訴外デシベルに売却した土地と価値に差がないにもかかわらず、一平方メートル当たり一五万一四八二円で売却している。本件譲渡土地の面積は二二一平方メートルであるので、訴外デシベルへの売却に比べて六三六万九四四一円も減額して譲渡し、兵庫県の住宅政策に協力したのである。
2 しかるに、本件処分のごとく本件交換により原告に三三四七万七六〇〇円の収入があつたとすると、本件取得土地の兵庫県による買収によつては原告に所得は生じないことになり、その結果、この買収は課税の対象とならず、本件譲渡土地の譲渡につき措置法三三条の四の特例による三〇〇〇万円の特別控除が受けられないことになり、前記の和辻らから交付を受けた証明書は使用されないこととなつた。
二 収用の特例の適用
1 兵庫県が本件譲渡土地を原告から買収して、訴外前田との間で本件譲渡土地と本件取得土地を交換すれば、措置法三三条の四第一項の規定により、原告は本件譲渡土地の譲渡について三〇〇〇万円の特別控除の適用を受け得たのである。措置法三三条ないし三四条の四が一定の場合に一定額の譲渡所得について免税扱いするのは、住宅政策等のための公共機関の土地取得を円滑、容易にするためである。本件交換に課税があり、この特別控除を受けられないことが分かつていれば、原告は本件譲渡土地をわざわざ減額してまで手放さなかつたので、兵庫県は山本野里団地建設用地の取得はできなかつたはずである。よつて、本件交換とその後の買収とは一体として評価し、措置法三三条の四第一項を適用すべきで、これを適用しない本件処分は、措置法の趣旨を没却し違法である。
被告は、本件交換に法五八条所定の特例の適用を否定しつつ、後日の本件取得土地の売却代金分三三四七万七六〇〇円をそつくりそのまま本件譲渡土地の代価と評価した。この点も、本件交換とその後の買収とを一体として評価すべき根拠となる。
2 被告の本件交換に対する課税は、法の規定を措置法に優先させたもので、措置法一条の趣旨に反している。措置法は一般法たる法に対して特別法に当たるところ、本件処分は、一般法たる法五八条が適用されたために、特別法たる措置法三三条の四が適用されない結果となつて、特別法は一般法に優先するという大原則が踏みにじられている。これはまさしく本件取得土地ではなく、本件譲渡土地に対して課税したことにより生じた不都合である。
3 措置法三三条の四第一項の所得控除の適用につき、原告はその旨を昭和五六年分の確定申告書に記載しなかつたが、本件交換と一体として評価されるべき買収がなされたのが昭和五七年三月一八日で、代金の支払が同月三一日であつたから、昭和五六年分の課税につき手続的要件を備えようがなかつたのであり、同条五項規定の「やむを得ない事情」がある場合である。
二 交換の特例の適用
1 仮に本件交換と本件取得土地の買収とが別個の契約で一体とみなすことができないのであれば、本件交換に法五八条一項の交換の特例を適用すべきである。すなわち、本件交換の時点にあつては兵庫県の買収は将来の問題で、原告は、本件取得土地を本件譲渡土地の交換前の用途と同一の用途、つまり田として使用し、右買収がなければ、その後も、田として使用した筈であつた。
2 被告は、同条三項の手続要件が欠けているので同条の適用はないと主張する。しかし、原告が本件交換による原告名義の所有権取得登記の存在を知つたのは昭和五七年九月になつてからで、かつ前記の次第で本件交換に税金が課せられるなど夢にも思つていなかつたので、本件交換のことを昭和五六年分の確定申告の際申告し得るわけはなく、「やむを得ない事情」(同条四項)のある場合に該当し、同条一項の規定が適用されるべきである。
三 信義則違反
本件譲渡土地を交換し、それにより取得した本件取得土地を売却するというのは、兵庫県、兵庫県住宅供給公社ないし和辻らが主導したもので、原告は請われるままに署名等をしたのである。そして、兵庫県が直接原告から本件譲渡土地を買収しておれば、被告主張のとおりだとしても、原告は一五〇〇万円の所得控除を受け得たのである。原告は脱税をしようとの意図など毛頭なく、むしろ代金を減額してまで譲渡して県の住宅供給計画に協力したのである。この計画は建設省の意向にも沿つた国の重大な政策の一つであつた。つまり、原告は国の政策に協力し、その過程で本件取得土地の所有者にさせられたが、その点をとらえて、国の一機関である大蔵省が税金をかけてくるのは、国民ないし市民としての国や県に対する一般的義務を越えた原告の協力行為を踏みにじるものであつて、不当で許されない行為であり、被告の本件課税権の行使は、信義則違反ないし権利の濫用である。
第三証拠
本件記録中の調書の記載を引用する。
理由
一 本件処分の経緯が別表一のとおりであることは当事者間に争いがない。
二 成立に争いのない乙第一二号証によれば、原告と訴外前田との間で原告所有の本件譲渡土地と訴外前田所有の本件取得土地につき昭和五六年一〇月一五日付けで本件交換契約を締結したことが認められるところ、本件譲渡土地は訴外前田に、本件取得土地は原告に、昭和五六年一二月一七日交換を原因として同月二一日受付でそれぞれ所有権移転登記が経由されたこと、兵庫県が昭和五七年三月一八日、本件取得土地と本件旧国有地とを代金三五〇七万八四〇〇円で買収したこと、被告が本件譲渡土地の譲渡による原告の収入すべき額がこの譲渡時の本件取得土地の時価に相当する額であるとして、右兵庫県による買収価格を前提に三三四七万七六〇〇円と算定し、本件処分をしたことは当事者間に争いがない。
原告は、本件交換による本件譲渡土地の譲渡は本件取得土地の兵庫県による買収と一体であるから、措置法三三条の四第一項所定の収用の特例を適用して所得控除をするべきであると主張するが、本件交換と兵庫県による本件取得土地の買収とは、別個の法律行為であるところ、措置法の適用上これらを一体とみなすべき根拠はなく、原告の右主張はその余の点を検討するまでもなく失当である。
三 交換の特例の適用について検討するに、
1 法五八条一項所定の交換について課税上その譲渡がなかつたとみなされるには、同条三項により確定申告書にこの特例の適用を受ける旨と取得資産及び譲渡資産の価格等所定事項を記載した場合に限られるところ、原告が昭和五六年分の確定申告書にこの記載をしなかつたことは、当事者間に争いがない。
2 証人和辻潤治、同矢田文蔵の各証言、原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和五六年九月ころ、和辻らから、本件譲渡土地を兵庫県が宝塚市山本野里一丁目に建設予定の県営住宅のための用地買収に必要な見返り土地として譲渡して貰いたいとの勧誘を受け、兵庫県による土地買収については三〇〇〇万円まで所得控除が認められ、この買収のための手段として本件交換をするとの説明を受けたことから、本件交換は訴外前田との取引であつて、兵庫県との取引でないことに意を払わず、本件交換は兵庫県の土地買収に関しての取引であつて、この買収について所得控除の申出をすれば本件譲渡土地の譲渡につき控除が受けられると誤信し、本件譲渡土地を訴外前田所有の本件取得土地と交換する手続にはほとんど関心を払わないでこれを和辻らに任せ、土地交換契約証書(乙第七号証の一、第一二号証)、農地法三条の許可申請の委任状(乙第六号証の五)、農地等の権利移動の届出書(乙第五号証の二)、同許可申請書(乙第六号証の二)、本件譲渡土地の所有権移転登記の委任状(乙第三八号証の四)等を作成し、必要な印鑑登録証明書(乙第六号証の三、同第三八号証の五)を交付したことが認められる。
そうすると、原告は、本件譲渡土地の処分につき三〇〇〇万円までは税金がかからないとの和辻らの言葉を鵜呑みにし、本件交換と本件買収は一体のものと判断して本件交換について法五八条三項所定の手続をとらなかつたことになるところ、本件交換が本件譲渡土地の独立の処分になることは見易いところで、原告自身が本件交換に関する必要書類の作成に関与しており、原告にもそのことは容易に判明し得たと認められることからすると、原告が昭和五六年分の所得の確定申告書に所定の事項を記載しなかつたことにつき同条四項の「やむを得ない事情がある」場合には未だ該当しないというべきである。したがつて、その余の要件を検討するまでもなく、本件交換に法五八条一項の特例の適用はない。
四 原告は、土地代金を減額してまで買収に応じ、国や兵庫県の住宅政策に協力したので、被告の課税権の行使は信義則違反ないし権利の濫用であると主張する。しかし、原告の供述によれば、原告は本件譲渡土地を時価より廉価で処分したことになるが、これは、節税の点も含めて利害得失を計算したうえで、本件譲渡土地を処分したものであるから、和辻らの説明によるとはいえ、減免の要件を誤解した結果、減免の規定の適用が受けられなかつたからといつて、被告の処分が信義則違反ないし権利の濫用になるとは認められず、原告の右主張も採用することができない。
五 そうすると、被告が本件譲渡土地の譲渡により原告に本件取得土地の時価相当の収入があつたとして本件処分をなしたことに違法な点はなく、ほかに本件処分を違法とするに足る事由の主張立証はないから、本訴請求は理由がない。よつて、これを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 林泰民 裁判官 岡部崇明 裁判官 井上薫)
別表一
<省略>
別表二
譲渡所得金額の計算明細書
<省略>